竹谷出版学術ジャーナル『教育への扉』

(2022年4月より、旧「竹谷出版電子ジャーナル『教育への扉』」から名称変更いたしました。)

ISSN 2436-4959


(2021年12月)

ミドルリーダーとしての資質とは

~教職大学院の組織マネジメントコースの在り方~

(寄稿)

水上 丈実

北海道教育大学大学院 教育学研究科 高度教職実践専攻(教職大学院)教授

  

1957年北海道旭川市生まれ。北海道旭川市・士別市の公立小学校教諭、北海道教育大学附属旭川小学校文部教官教諭、旭川市内の公立小学校教頭、校長を経て現職。北海道教育推進会議委員、北海道新型コロナウィルス感染症対策有識者会議委員、北海道教育委員会「学校力向上推進事業」「学力向上推進事業」等アドバイザーを歴任。道徳・総合・生活・社会科が専門。

 

1 はじめに

 

 私が所属する北海道教育大学の教職大学院は、今年度(令和3年度)修士課程を巻き込み、定員45名から90名と倍増となり、学校組織マネジメント・教職キャリア形成・研修デザイン、子ども理解・学級経営、教科指導・授業開発、特別支援教育、養護教育の6つのコースに改編されスタートした。

 本学教職大学院の特長は、①理論と実践の往還、②複数教員による指導体制、③双方向遠隔授業(札幌校・旭川校・釧路校・函館校・札幌駅前サテライトの5地点)を結び、最新のICT機器を駆使しての参加体験型授業や問題解決型授業の実施)、④院生の研究テーマをきめ細かくサポート、⑤様々な経験を持つ院生との交流、⑥年間4期のクォーター制である。

 カリキュラムは、表1のようになっている。

 

 学部直進者院生と北海道教育委員会の選考試験を通り学校課題解決のために学び直しに来る派遣現職院生、そして、北海道教育委員会からの派遣ではなく、勤務終了後、学び直しに来る現職院生が協働して学んでいる。授業は、平日午後6時からの授業と土曜日の1講目から5講目の授業を受講しながら、実習校もしくは勤務校での実習(実地研究)を行い単位を取得していく。自らの研究をまとめた実践論文の執筆がゴールとなる。

 私が受け持つ旭川校の院生の学びの状況を見ると、学部直進院生のほとんどが、教科指導・授業開発コースを選択している。その理由は、生徒理解・教育相談の手法はとても大切だし、学級経営も必要なことは分かっているが、教師の生命線は授業力ということに気付くからである。

 

 よって、多くの修士課程と違い、コース変更や研究テーマの変更は大いにあり得るのである。これは、「総合的な学習の時間」の探究の過程に似たところがあり、知見が深まるとともに課題(研究テーマ)が更新していくのである。とは言っても、それらは2年間の中での学びが成立するまでの期間限定ではある。但し、旭川校では先月(2121年11月)、修了生が集い「旭川教職実践研究会『実学(みがく)の会』」が発足した。修了生120名中50名が参加し、現院生と教員も合わせて70名で発足総会を行い、発足記念研究会では3名の研究発表で協議が白熱した。今後、修了生の実践研究の受け皿になっていくことは間違いない。

 本学教職大学院は開設して15年が経過し、修了生の中には、管理職になっている者、行政で指導主事として活躍している者も数多くおり、多くの実践的指導力を身に付けた教員の養成ができていると自負しているところである。

 

2 院生の課題意識と修了研究の紹介

 

 本学教職大学院旭川校修了生の過去2年間の主な研究テーマを紹介する(表2)。現職院生は、勤務校の学校課題解決に向けての研究が多く、自分の学校での立ち位置を明らかにして学校改善に資するテーマが多い。また、学部直進者は自身の資質向上を目指して研究を進めている。追い求めているのは、新奇性ではなく、学習指導要領の背景にある理論をおさえた現場に根差すことのできる実践研究である。

3 組織マネジメントコース院生養成の難しさ①

 ーミドルリーダーとしての資質とはー

 

 本学教職大学院において、現職院生しか修学できないのが組織マネジメントコースと教職キャリア形成・研修デザインコースである。その中から、本学教職大学院の組織マネジメントコースのねらいについて着目する。

 令和3年度学生募集要項には、「ミドルリーダーとしての経験をふまえて,今後学校管理職や地域の指導的立場として活躍する経営的資質能力の形成を主眼とするコースです。学校の組織マネジメントに関する理論や高度な実践力を習得することにより、終了後は学校経営や教育行政において管理職や指導的役割を果たす人材として、学校教育に貢献していくことを目指します。教職経験が原則10年以上の現職教員を対象にしています。」と記載されている。ここから読み取れるのは、ミドルリーダーとして十分な経験を有する者、つまり、ミドルリーダーとしての資質・能力を一定程度身に付けている人がこのコースの対象として望ましいということである。

 ここで、私の小学校現場おける、生徒指導部長、研修部長、教務主任、そして、教頭、校長の経験をたよりに、ミドルリーダーの資質・能力を以下の4点にまとめる。

 

(1)校長の学校経営方針を読み解く力

 まず、校務分掌の長、学年の代表(主任)、特別委員会の長として、校長が示した学校経営方針を読み解き、自身が具体化すべき方策を立て、協働すべき教職員と共通理解を図り、業務を推進することができていることが前提となる。

 下位の資質・能力として、

 ① 教育改革の潮流から学校教育の今日的課題を理解する力

 ② 保護者や地域住民の願いや教職員の想いを集約し、学校課題や経営方針と結び付ける力

 ③ 経営方針から自身がすべき方策を立案する力

などが必要となる。

 

(2)自身の業務を協働して遂行する力

 自身の校務分掌や学年団での重点目標や解決方策が出来上がったら、それらを同僚と共有することが必要となり、共有化できたときにはじめて、協働して業務が推進できることになる。

 そして、下位の資質・能力として、

 ① 同僚と方策を共有する力

 ② 同僚と協働する際の人間関係形成能力

 ③ 業務の進捗状況を見極め,発信する力

などが必要となる。

 

(3)学校評価の必要性や目的を理解し活用する力

 自身の運営する分掌業務の評価や学年経営の評価について推進するとともに,児童生徒・保護者アンケートを活用して,自己評価を行い,改善していくためには,学校評価ガイドラインを十分に理解することから始めなければならない。そして,一連の学校評価の流れを理解し,活用する力が必要である。

 そして,下位の資質・能力として,

 ① 学校評価ガイドライン等の理解緑

 ② 自校の学校評価システムの理解とその活用力

 ③ 学校評価結果を生かした自身の業務改善力

などが必要となる。

 

(4)教育課程を編成・実施・評価・改善する力

 教育課程の編成・実施・評価・改善のすべてに携わるのは、教務主任や教育課程編成委員会の長となった時である。よってそのすべてに携わることを前提条件にしてしまうとかなり入学者の数を減らしてしまうと考えられる。そこで、ここでは自身の関係した教育課程を編成方針に則って編成・実施・評価・改善する力としておくこととする。

 そして、下位の資質・能力として、

 ① 教育課程編成委員会の編成方針を理解する力

 ② 自身の関係する教科・領域等の教育課程を構想する力

 ③ 編成された教育課程に基づき教育活動を行い、児童生徒に学力を身に付けさせる指導力

 ④ 評価結果を基に、授業改善・教育課程改善する力

などが必要となる。

 

4 組織マネジメントコース院生養成の難しさ②

 ー教職大学院の養成の役割とはー

 

 前項で、4点にわたって組織マネジメントコース院生に求められるミドルリーダーとしての資質・能力を述べた。

 それらを基に、私の小学校現場の経験から、組織マネジメントコース院生に教職大学院で身に付けてほしい資質・能力とそれを身に付けさせるために重要と考える演習や活動を述べることとする。

 

(1)資質・能力ベースの学校経営方針を立案する力

 学校現場では、SWOT分析や前年度の学校評価結果等から学校経営方針を立案していくが、経営方針には何が盛り込まれていればよいのか、どのような経営方針が教職員の琴線に触れ、同僚性を発揮して機動するようになるのかを構想することが必要と考える。

 そのためには、

 〇中教審答申や学習指導要領改訂の背景など教育改革を理解する

 〇学校経営方針の理想形を構想する

 〇経営方針を受けた校務分掌計画や学年・学級経営案のあるべき形を構想する

 〇学校に具備しなければならない各種計画の洗い出し、構想する

 

 これらを組織マネジメントコース授業に盛り込むべきである。

 

(2)児童生徒に学力を育む教育課程改善・授業改善に資する力

 教育課程のあるべき姿を明確にし、教育課程を構想することから始まり、児童生徒に学力・心力・体力をはぐくむために、それらを改善していく道筋を教職員と共有する力がこれからの経営者には必要になる。

 そのためには、

 〇自校に相応しい教育課程編成方針を立案する

 〇編成方針に則った各教科・領域レベルでの教育課程の具体案を構想する

 〇編成した教育課程と日々の授業の在り方の連関性を構想する

 〇教育課程編成方針を具体化する授業を校内研修の場で共有化する方法を考える

 

 これらを組織マネジメントコース授業に盛り込むべきである。

 

(3)学校評価システムを構築する力

 学校評価、学校関係者評価、第三者評価などは別物でなく、教職員評価も含めて連関性があり、うまくつなげることで、学校改善、児童生徒の学力形成、保護者・地域住民との協働が図られていくと考える。そこで、自校の実態に即した学校評価システムを構築する力が求められる。

 そのためには、

 〇学校評価、学校関係者評価、第三者評価、教職員評価等それぞれの目的や運営について理解す

 〇そうした多くの評価の連関性について理解する

 〇自校の学校評価システムを構築する

 〇実施した児童生徒アンケートや保護者アンケートの結果の分析方法を考える

 〇次年度に向けた改善プランを構想する

 〇学校評価結果や改善プランの講評の仕方を構想する

 

 これらを組織マネジメントコース授業に盛り込むべきである。

 

(4)学校にある危機に対応する力

 新型コロナウィルス感染症対策は、学校の危機管理や危機対応の力を増大させた。しかし、危機は感染症だけではない。学校にある危機を想定し、学校保健・安全計画のみならず、学校危機対応計画を作成し、同僚性を発揮しながら対応していく力を高めていくことが肝要である。

 そのためには、

 〇自校に相応しい学校保健安全計画を立案する

 〇自校に相応しい学校危機対応計画を立案する

 〇具体的な危機事例について,対応計画を練る

 

 これらを組織マネジメントコース授業に盛り込むべきである。

 

(5)保護者・地域住民,他校種と連携する力

 コミュニティー・スクールを中心に、学校だけでなく、地域の児童生徒は地域で育むなどの意識改革を図ることが必要であり、連携の在り方を構想することが大切になってくる。また、小1プロブレムや中1ギャップを解消するだけでなく、学力を育むための校種間連携・接続の在り方も構想しておきたい。

 また、15歳の義務教育修了の姿を地域で共有化する手立ても必要になってくると考えている。

 そのためには

 〇コミュニティー・スクールの在り方を考える

 〇校種間連携・接続の在り方を構想する

 

 これらを組織マネジメントコース授業に盛り込むべきである。

 

 

 以上、4点について、私の小学校現場での経験を基に述べていったが、各教職大学院においては既に盛り込まれているものもあるかもしれない。また、これにSociety5.0の考え方やSDGs17の目標の考え方を学校経営に取り入れるとまだまだ足りないものがあるのかもしれない。それらを踏まえ、今後も教員養成に資するよりよい授業を考えていきたい。

 

5 結びに

 

 教職大学院では、現職院生に上に述べた資質・能力を身に付けさせるための授業設計を進めていくことが必要となると考えている。加えて、1つ1つの授業のシラバスにおいて授業の全回を通じて身につけさせたい目標と授業各回のねらいが体系化されているとともに、他の授業との連関性をコンテンツベースとコンピテンシーベースの両面から考えることも重要である。その際、はじめに経営理論ありきではなく、「この取組をこうした目的で行うのであれば、この経営理論が考えられる」というように、院生の課題意識に即した視点を提供できるのが教職大学院の教員と考えている。

 現在、学校現場では理論と実践の往還や同僚性の構築が謳われている。院生に理論と実践の往還を語る以前に、そこで教える私たち教員自らが同僚性を発揮し,授業改善に当たっていきたい。

 

参考文献

1) 令和3年度「大学院教育学研究科(専門職学位課程)学生募集要項」北海道教育大学

 2)「学校評価ガイドライン[平成28年改訂]」文部科学省


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