竹谷出版学術ジャーナル『教育への扉』

(2022年4月より、旧「竹谷出版電子ジャーナル『教育への扉』」から名称変更いたしました。)

ISSN 2436-4959

(2021年6月) 


技術科教育の力ある教材とは

 「新編 技術科教材論」の発刊趣旨とその意味 

(寄稿)

安東 茂樹

芦屋大学特任教授、京都教育大学名誉教授

博士(教育学)

 

1950年兵庫県明石市生まれ。兵庫県の公立中学校・国立附属中学校、兵庫教育大学、京都教育大学、広島国際学院大学を経て現職。文部科学省学習指導要領技術作成協力者主査,文部科学省大学設置審議会委員、日本産業技術教育学会会長等を歴任。主著:『教授過程における技術的能力を高める教材』(風間書房、単著)、ほか

1 はじめに

 発刊した「新編 技術科教材論」は、中学校の技術科教育に携わる教員から、大学の教員養成課程で技術科教育の内容を学習する学生まで、有用に役立つ資料と位置づけられる。書名の「技術科」は中学校の技術・家庭科技術分野を意味し、「教材論」の教材は多義の意味や多様な用い方がなされ、教育目的を達成するための学習に供する素材であり、教材論としてカリキュラムや題材を構成する内容そのものの道理を示している。そのため、技術科教育の教材研究・教材開発・教材設定・教材内容・教材構成等の理論や実践の資料として取扱われることを期待する。

2 「新編 技術科教材論」の発刊

 本書の装丁は、若葉模様の温かみと爽快感のある表紙に、写真や図表等が豊富で、重厚な書物である。内容は、技術科教育の理論と実践について、時代に求められる内容でまとめられ、これからの中学生を育むための具体的な方略や教材などが掲載されている。また、技術科教育の教材に関して、未来への正確な指針を示し指導上の羅針盤のような存在である。

3 「新編 技術科教材論」の趣旨と意味

 本書で示した趣旨や意味を、①~⑧にまとめる。

① 技術科教育の3つの命題

人間の成長や発展に必要な能力を育成する命題として、「1.人間が生きて働く基本行動を養う教育として技術科教育と捉え、授業展開で重要な教材の位置づけを明解にすることによって、技術科教育の指導のあり方を具現化する」「2.技術科教育の指導展開の理論学習・課題設定・設計・製作・評価・活用等の流れにおいて、実践的・体験的な学習を通して工夫し創造する技術的な能力を育成する」「3.実際の技術科教育に視点をおき、実践的・体験的な学習を推し進めるために大きな影響を及ぼす教材と、学習素材としての題材のあり方について検討する」を掲げ、本書の「教材の位置づけ」、「教材開発の視点」及び「教材開発の実際」で具現化している。

② 技術科の教師の姿

 技術科の教師は、「クリエイティブなものづくり教育を通して、人間としての生き方を具現化する存在」であって、以下の図の位置づけが考えられる。

図1 生徒に対する教師の姿

 ③ 技術科教育の意義

 技術科教育は、授業に問題解決学習を取り入れ社会の変化に伴った教育内容を編成し、ものづくり教育としての本質を貫いている。加えて、科学の応用としての技術の重要性とその意義を学ぶ教育であって、工学(テクノロジー)の基礎と位置づけられる。

図2 技術科教育の意義

④ 技術科教育の学力構造

 技術科教育の学力構造は、表層の学力として基礎的な知識・技能を、次に中層の学力として認知的能力と技術的能力を、そして深層の学力として実践的な態度へと深化・形成して構築されていく。

図3 学力構造と資質能力

⑤ 技術科教育の評価観

 技術科教育で加工したりプログラミングしたりする知識・技能(スキル)は、自己調整力としての自己モニタ力(自分の知識・技能を上位からコントロールする能力で、自身の行為や操作方法などを監視する能力)によって形成されている。その過程の評価観は、どのように考え、製作(制作)過程でいくつの手法を取り入れ、どのように創意工夫したか、いかに創造性豊かな考えを発揮しているかなど、生徒自身が、学習前よりどれだけ進歩しているか、その変位(変容)を示すもので、スキルが多いほど学習としての価値が認められる。

⑥ 技術科教育の教材

技術科教育の教材として、広義には教科・分野の目標を達成する「題材」と教育過程で用いる「教材」「教具」のすべてを含んだ内容を意味し、狭義には、教育過程で指導効果を上げる材料や素材を意味する。そして、技術科教育で「教材」「教具」の両方の内容を含むものを「教材教具」と呼び、どの教科でも用いる教科書や教育機器を「一般的教具」として分類する。

図4 技術科における分類

⑦ 技術科教育の題材選定

 技術科の教師が題材を選定する場合、指導上の状況や環境が加味され、良い教材として生徒主体の学びの可能な要素を求めている。一方、生徒が求める題材は、「自己内発因子」「生活応用因子」「自己構想因子」「技能因子」を要素とし、両者は学習指導要領の3つの観点別学習状況評価の内容と合致している。

⑧ 技術科教育の在り方

 技術科教育は、時代の変化や社会の要請に対応しているため、教師に柔軟な姿勢や心構えが要求される。教授過程で問題解決的な学習が実施され、系統立った理論の構築を通したプロジェクト型の経験的な学習と実証的な研究が求められる。そして、教材の在り方で価値ある教材として、「新鮮で知的好奇心がそそられる」「生涯学ぶことを楽しみにし、自己を高めることができる」「一人一人の個性を生かしながら、仲間と共に伸ばすことができる」「筋道を立てて考え、科学的な学習方法を身に付けることができる」「鋭い感受性を養い、豊かな人間性を育むことができる」ものが求められ、時代に応じた教科内容を編成することが大切である。

 

 結びとして、教育現場で目の前にいる生徒にいかに有効な技術科教育を施し実践させるかが課題になる。学習指導要領の趣旨や内容を逸脱することはできないが、各教師やその地域独特のユニークな教材や指導法の実践など思い切った取り組みが必要である。技術科教育の発展や教科意義を確実に示すために、今までより前に踏み出すことが大切と思われる。

 

参考文献

〇 新編 技術科教材論、竹谷出版、2021.4.26、210pp. 


『教育への扉』とは

 竹谷出版学術ジャーナル『教育への扉』は当社から依頼した著名な先生方から頂いた「寄稿」や、全国の研究者・実践者の方々から「投稿」頂いた原稿をWeb上で定期刊行物として読者の皆様に提供するものです。

 教育実践や研究に役立つ情報共有の場になれば幸いです。


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