DOORWAYS TO EDUCATION: An Academic Journal by Taketani Publishing
ISSN 2436-4959
(寄稿)
食農を軸にしたカリキュラム・マネジメント
~ 北海道釧路市立山花小中学校の取り組み ~
(寄稿)
小泉 匡弘
北海道教育大学 准教授(旭川校 生活・技術教育専攻)
北海道石狩市出身。北海道内の公立中学校教諭,北海道教育大学旭川校特任講師を経て2018年より現職。「生物育成の題材」と「教師の実践知」を中心に研究中。主著・論文等:『教師のわざを科学する』(一莖書房, 分担執筆),「生物育成の技術の評価に関する授業の実践知表出の試み」(日本産業技術教育学会誌),ほか。
1 現在,学校教育で求められること
学習指導要領(2019)では,「持続可能な社会の創り手となることができるように」,「持続可能な社会の創り手となることが期待される」と明記され,ESD(Education for Sustainable Development)「地球規模の課題を自分事として捉え,その解決に向けて自ら行動を起こす力を身につけるための教育」が中心として位置づけられている。
また,令和の日本型教育として「個別最適な学び」および「協働的な学び」が鍵概念として示された。「個別最適な学び」は,子どもの興味関心に応じた課題や活動に取り組む機会を提供することで,学びが子どもに最適となる学習の個性化を図る。「協働的な学び」は,探究的な学習や体験を通じて多様な他者と協働することで,異なる考えを組み合わせたよりよい学びを生み出す。
一方,VUCA(Volatility:変動性, Uncertainly:不確実性,Complexity:複雑性,Ambiguity:曖昧性)時代を生きる子どもにとって,自ら問題を見つけ課題を設定し様々な概念やスキルを組み合わせて解決する力が必要となる。そのために,学校での学びは,STEAM(Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics)などの各教科内容を関連させた教科横断・問題解決的学びが肝要となる。
これらのように学校教育は,「ESD」,「個別最適な・協働的な学び」,「教科横断的・問題解決的学び」が求められる。時代を鑑みれば,これらが示す理念に沿って教育を行うことはやぶさかではないが,学校現場では様々な制約条件があるため実践するには知恵を絞らなければならない。そのためには,まず実践の土台となるカリキュラム・マネジメントが重要となる。
本稿では,北海道釧路市立山花小中学校(以下,山花小中)のカリキュラムについて紹介する。山花小中は食農を教育活動の軸にする。山花小中のカリキュラムは,「ESD」,「個別最適な・協働的な学び」,「教科横断的・問題解決的学び」を食農でつないだ三色団子のようなイメージである(図1)。食農を軸にしたカリキュラムで,各団子の味が際立ち調和する教育活動を展開しようと取り組んでいる。
図1 山花小中カリキュラムイメージ
2 特色ある教育活動
(1)総合的な学習の時間
山花小中では,総合的な学習の時間のテーマ「STOP!地球温暖化!!」を掲げて,身近な生活の中にある問題のために自分たちができることを提案する。そして,個人テーマと学年テーマを設定し,各テーマについて実践を通して個人または協働で探究する(写真1,2)。
一方,学年縦割り班を構成し,学校農園を使った栽培活動を行う。また,子どもたちは栽培した作物を使った料理や加工品をつくり,保護者や地域の人に提供する(写真3,4)。
山花小中では「実践を積み重ねる」ことを大切にしており,子どもたちは実践を通して,探究,問題解決,協働について身をもって学ぶことができる。
写真1(左) 個人探究の姿 ・ 写真2(右) 協働探究の姿
写真3(左) 縦割り班での調理 ・ 写真4(右) 保護者・地域の人への加工品の提供
(2)ESDカレンダー
小学校5年生の各教科内容をESDの観点からまとめたESDカレンダーを図2に示す。このようなESDカレンダーを小学校1年生から中学校3年生まで作成し,1年間の各教科のSDGsに関わる内容を一覧として整理する。例えば,国語の「みんなが過ごしやすい町へ」はSDGsの17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」,社会の「日本の工業生産の今と未来」は9番目の目標「産業と技術革新の基盤をつくろう」と関わる。これによって,ESDと各教科の内容が往還的に関連付けられ,また,各教科の学習内容が進むにつれてSDGsの各目標を達成するためのアプローチの視点が多様化・具体化される。
図2 小学校5年生のESDカレンダー
(3)ESDの樹
ESDの樹が小学校1年生から中学校3年生までの学年ごとに設置されている(写真5)。子どもたちは,各教科の学習,総合的な学習の時間でESDに関して分かったことや疑問点などを付箋に書き込み自由に貼っていく(写真6)。ESDの樹を見ることで,自分の問いを明確化したり他者と探究過程を共有したりできる。また教師は,ESDの樹によって児童・生徒の個々の興味・関心を知ることができる。子どもたちの記述例を表1に示す。
写真5(左) ESDの樹 ・ 写真6(右) ESDの樹に貼られている付箋例
表1 ESDの樹に貼られている生徒の記述例
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〇理科で「泥水はどうやったら飲めるようになるのか?」という課題にチャレンジした。ろ過や蒸留,電気分解などを試して蒸留が一番うまくいった。世界の水問題は蒸留の仕方が関わっていて自然のろ過の仕組みにとても納得した。水問題について自分ができることを考えていきたい。
〇去年収穫した野菜の皮が大量にでた。これを効果的に使えるのではないかと考えコンポストをつくることにした。コンポストを使って作った土と普通の土との違いを調べたい。
〇Every day, we use a lot of plastic, but leads to produce tons of plastic trashes every year. These problems may put many sea creatures in danger. So, I suggest using the app “My Mizu”. It introduces a lot of places to refill water or drink, instead of buying bottles. Which can increase the use of plastic. |
理科での学習をきっかけに水問題に着眼し,水問題と蒸留の関わり,水の大循環について学び,自分たちが水問題に対してできることを考察する。調理の際に大量に出る野菜の廃棄部分からもったいなさを感じ,コンポストづくりと土壌調査を通して,廃棄物の有効活用について探究する。毎日大量にでるプラスチックゴミの自然界への影響を憂い,自分たちの行動転換が必要であることをアプリの紹介を交えながら得意の英語を用いて主張する。
子どもたちにとってESDは特別なことではなく,生活や教科学習などで日常的に意識されている。そして,探究が個々の興味・関心からスタートでき,実践を通して問題解決に取り組むことができる。これによって,子どもたちは持続可能な社会の構築に対してエンパワーメントされる。
3 行動主体を形成するカリキュラム
大森(2007)は,子どもの発達過程を「行動主体形成」としてとらえる。行動主体形成とは,子どもが主体的に選択・判断し行動することで自分の力に自信をもち,技と認識を身につけることである。行動主体形成の教育は,直接経験を通したその子の学びの文脈から展開されることが肝となる。
山花小中は,栽培活動を主とした食農を通して子どもたちの直接経験の機会を豊富に用意する。そのため,子どもたちは,日常生活や各教科で抱いた問題意識を実践的に探究できる。実践による探究によって,行動知に支えられた内容知を獲得し行動主体を形成する。獲得された知は,学校知として測られないこともあるだろうが,持続可能な社会を構築する知として,VUCAの時代を生きる知として重要な意味を持つだろう。
カリキュラム開発について,探究カリキュラム開発を行ったSchwab(1969)は,カリキュラムの革新には,理論によるものから実践に準じたものへと転換することが重要であるとする。山花小中のカリキュラムは2年目である。山花小中が今後も実践を通してカリキュラムを革新させ,三色団子が食農を軸にして有機的につなげられたカリキュラム・マネジメントのパイロット校となることを期したい。
参考文献
1) 文部科学省(2019)中学校学習指導要領,東山書房
2) 大森享(2007)行動主体形成の教育と小学校食農教育実 践,鈴木監修「食農で教育再生-保育園・学校から社会教育」,農文協,146-167.
3) Schwab, J. J. (1969) The practical: a language for curriculum, The School review: a journal of secondary education, 78(1), 1-23.
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